日本の家は、裏山の木や茅を用いて建て、月日と共に痛んだ箇所を作り変えて長持ちさせてきました。ある地域では、子供が生まれると裏山に木を植え、その子が50歳になった頃に木を切り、材木にしたのだそうです。また、屋根の葺き替え作業などは、近隣の住民総出で手伝ったそうです。土壁は長い期間藁と土を混ぜて熟成させておかなければ塗れなかったし、家を造るには相当な長い月日と人とのつきあいが必要だったに違いないのでしょう。そうして出来た家は柱一本一本に、重みと暖かさと愛着があるでしょう。
私の父の生家もそんな茅葺きの家でした。夏休みに遊びに行くと、おばあちゃんが縁側でひなたぼっこをしていました。その頃はまだ蚕と一緒に暮らしており、ひんやりとした土間に入ると、床から天井近くまで蚕の棚があり、茅葺の家独特ないぶした匂いと、土の匂い、
桑の葉の匂いが満ちていました。
夕食の頃は、裏庭にある大木にフクロウがいて、風流どころか、うるさいぐらいに声が響き渡り、就寝の頃にはいつしか鳴きやんで、漆黒の闇につつまれます。網戸などは無いので、蚊帳(かや)を吊ってくれて、その中に潜り込んで布団に入るものの、夜露の湿気と蚊帳のカビ臭さで眠れずにいると、蚕が桑をもさもさと食べる音が聞こえてきました。
風呂は薪で沸かす風呂でした。熱い底に触らないように板を沈めて入るのですが、バランス良く沈めるのが、難しくもあり、面白くもあり。
太い梁には、蛇の抜け殻もありました。蛇やら蚕やら、都会には見られないたくさんのいきものと住んでいることに驚きもありましたが、今ではそれが、自然と共にある住宅の原風景として心に刻まれています。
地球温暖化をはじめとする様々な環境問題が深刻化する今日、自然の循環の中に息づいて、人の手の跡が感じられるあの愛着のある家が新鮮に映ります。
狭い市街地でも、あのような自然と一体感のある現代的な住まいがつくれないものでしょうか。
自分たちのアトリエ兼住宅で、実験してみることにしました。建物の名前は、「繭」(まゆ)としました。
繭では、次のことを実践してみました。
5.シンプルな暮らし 必要なものと空間
竣工してから10年が経ちましたが、気持ちは変わらずに住み続けています。
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